先週の水曜日、知人の清河幸子さんが勤めていらっしゃる中部大学でトークをしました。社会心理・文化心理の代表的な知見を紹介した内容でしたが、トーク後の感想には鋭い質問がいろいろと書かれていて、こちらも刺激を受けました。どうもありがとうございました。いくつかの質問に対して、まとめて回答を試みます。
・トークの後半で文化内比較に触れました。その中の1つとして、自発的移住と開拓の歴史が独立的自己観や個人主義を生みだしている可能性を検討した北海道での研究を紹介しました。「自発的移住と開拓の歴史」は独立的自己観や個人主義を生みだす1つの要因にすぎず、他にもいろいろ可能性があると思います。そのうちの1つが、宗教的要因、プロテスタンティズムかもしれません。マックス・ウェーバーの有名な著書の1つに「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」があります。人々が、神からの救済を求め、禁欲的な労働による社会貢献に励んだ結果として、合理的な経営・経済活動を支える精神が生まれ、それが資本主義社会を促したというものです。ある実験室実験で、プロテスタントの参加者とカソリックの参加者に対して、実際に何か労働してもらうような場面を設定し、そののちにある認知課題を行うと、プロテスタントの参加者のほうが認知課題において周辺の情報を無視しやすいことがわかりました (Sanchez-Burks, 2002)。その意味では、トークでは触れる時間がありませんでしたが、宗教を扱っていないわけではありません。
・テレビ番組でも県民性の番組があるぐらいですから、県民性に関心をもつ人は結構多いのかもしれません。北海道での研究は、そこに住んでいる人の特徴を調べたものと理解するなら、確かに県民性を扱っていることになります。ただ、県民性の研究があったとして、それと大きく違う点は、おそらくその地域の社会環境や歴史を踏まえ、その結果として心の性質を人がもつように至ったという社会環境と心の性質との関連性を強調しているところだと思います。何らかの県民性が存在することは私も疑っていませんし、そのことは面白いのですが、結局、そこで「なぜそういった特徴が存在するのだ」と考えた時に、それに対して個人を超えた社会レベルでの説明が可能かどうかというところが重要で、もしも説明が可能でなければ、残念ながらバラエティ番組のターゲットにはなるけど、研究の対象にはならないということなのかもしれません。
・トークの後の質問にもありましたが、確かにこれまでの研究からアフリカというのはすっぽり抜けてしまっています。非常に限られたデータの結果によると、アフリカにおける人々も非常に周辺の状況に影響を受けやすいことがわかっています。1つの可能性として、一般的に人は周囲の情報に影響を受けやすいのだけど、非常に一部の限られた文化における人々、特にアメリカ人が特殊で、周囲の情報を比較的容易に無視できるということなのかもしれません。このあたりは、まだまだ今後研究を積み重ねないとわからない点です。
・最初に、Milgram、Asch、Sherifの研究を通じて、「状況の力」を紹介しました。無意識のうちに周囲からの影響を受け、それに合った行動をしてしまうことは興味深いことでもあり、やや空恐ろしいことでもあります。また倫理的にも問題がある可能性があります。特にMilgramの実験や、また紹介しませんでしたがZimbardoがスタンフォード大学で行った刑務所実験では、そのような問題が発生しています。そのため、それ以降、特にアメリカの大学・研究機関では、実験を実施する際にその実験内容に倫理的に問題がないか審査するのが慣習で、その審査をパスしないと実験実施ができないことになっています。
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